中央防災会議の作業部会が28日まとめた南海トラフ巨大地震対策の最終報告は、事前の防災対策の重要性を訴えている。国の防災基本計画で3日間を目安としていた家庭の備蓄については「1週間分以上の水や食料の備蓄が必要」とし、発生後は自宅を失うなど弱い立場の被災者を優先して避難所に受け入れ、被災が比較的軽かった人に帰宅を促す「トリアージ」(選別)の導入検討も求めた。


 最終報告では、防波堤や避難路、避難タワーなどハード面と、訓練などソフト面の対策を組み合わせるよう要請した。


 避難所の収容能力を超える被災者が詰め掛けた場合は、手厚い支援が必要な人が放置されかねないため、住宅被害が大きい人や高齢者、乳幼児がいる家庭などを優先せざるを得ないと分析。交通が復旧した後は被災を免れた地域に移る「疎開」も検討すべきだとした。行政の支援が届くまで地域で自活しなければならないことから、家庭の備蓄は1週間以上に拡大した。


 津波被害を避けるため、学校や病院などの施設は、高台をはじめとした安全な場所への事前移転を提言。負傷者数は最大で62万3千人、建物被害で自力脱出ができない人は31万1千人に上り、ヘリなどによる搬送が追いつかないとみて、被災地に「野外病院」を設ける必要性も指摘した。


 ■これまでの目安の2倍以上 どうする保管場所「県民にどう説明すれば…」


 広い範囲で甚大な被害が予想される南海トラフ巨大地震。地震発生後の3日間、被災地では食料が最大3200万食、飲料水は同4800万リットルが不足すると見込まれ、最終報告では家庭や震災で孤立する可能性のある集落に1週間以上の備蓄が求められた。これまで国が目安としていた3日間の2倍以上に当たる量に、困惑の声も上がる。


 そもそも、1週間分の備蓄とはどれくらいの量なのか。例えば、水。大人は1日に1人当たり2〜3リットルが必要とされ、多めにみると21リットルを備蓄しなければならない。これをペットボトルで用意すると、2リットル入り10本、1リットル入り1本が必要になる。


 食料は1人21食分。生活雑貨を扱う東急ハンズ新宿店(東京)の防災用品コーナーには、水や湯を入れるだけで食べられるチャーハン、山菜おこわなどの非常食が並ぶ。発熱剤で温める牛丼やビビンバもあった。パンの缶詰も入れて、1週間分は大きな買い物袋いっぱいになる。


 水や食料のほか、最終報告は生活用品の備蓄も求めている。カセットこんろ1台に簡易トイレの袋2箱、電池4本なども新しく買いそろえると、1人当たり約2万5千円になる計算。保管場所にも困りそうだ。


 災害時の備蓄については、過去の災害などで外部からの支援に要した時間に基づき、これまでは3日分が目安といわれ、国も3日を基準としてきた。


 ただ、三重県が実施した調査では、3日分の備蓄を整えている家庭は25%にとどまる。県の担当者は「いきなり1週間といわれても理由が分からず県民に説明ができない」と話す。


 最終報告は自治体に対し、津波や土砂崩れで交通網が寸断され孤立する可能性がある集落を把握し、1週間以上の食料や燃料を備蓄することも求めている。


 太平洋に面し、最大17メートルの津波が予想される三重県尾鷲(おわせ)市。周囲を山に囲まれた市内には、孤立可能性のある集落が12あるうえ、市全体が孤立する可能性もある。


 市は東日本大震災後に、人口の2割が5日間生活できる量を目標に備蓄量を増やしてきた。


 しかし、最終報告で求められた1週間分の備蓄は、食料だけを比較しても計画の7倍。市の担当者は「保管場所だけでも膨大。市が単独でまかなえる量ではない」と訴える。


 そこで、市は家庭や地域での備蓄を底上げし、孤立時に備える計画だ。学校の空き教室を備蓄庫として開放するほか、自主防災組織で高台に備蓄庫を設置する際は補助金を支払うなど支援策も用意した。


 市の担当者は「食料や水を市民にお願いし、持ち運びが難しいものや自宅が津波で流された場合などに市の備蓄で支援したい」と話している。


【用語解説】トリアージ


 フランス語で「選別」を意味し、本来は事故や災害で多くの傷病者が生じた際に、緊急性が高い人から優先的に搬送や治療をするため、各人の病状を評価することを指す。南海トラフ巨大地震対策の最終報告は、多くの被災者が避難所に入りきれない事態を想定、各人の状況を評価して受け入れるかどうかを判断する手続きを「トリアージ」と呼んだ。住宅を失った人や高齢者、障害者、乳幼児がいる家庭を優先することなどを念頭に置いている。